69.塔 3




 “ドアの先に進めるのは、各一名のみ”
 “この部屋に残る二人を話し合って決めてください”

 三人の受験者がそれぞれ、厳しい顔つきでその文章の意味を噛み砕いていた時、一人だけ相変わらず読めない表情でプレートを一読した人物が真っ先に口を開いた。

「うん、じゃああと一人、誰が進むか話し合ってよ」
 ギタラクルだ。
 さも当然のように言うその内容を、三人はプレートの文章に引き続いて噛み砕き、
「はああ!?」
 同時に声を上げた。
「そ、それって!」
「アンタ……」
「自分が進むのは決定事項!?」
「うん」
 あまりに厚顔な態度に、三人の口が開いたきり閉まらない。ダメだコイツ話にならない、と放置しておければどんなに楽だろうか。無論、そういうわけにはいかない。
「そんなの通ると思ってるの!?」
 ポンズが声を上げた。
「進めるのは二人だけ。あとの二人はこの部屋に残される。進めない、つまり脱落も同義よ! そんなのゴメンだわ……!」
「お、俺だって!」
 みすみす不合格なんて冗談じゃない、とも主張したが、自分がこの先へ進むというのは、確実に他の三人の内二人が落ちるという意味だ。
 ほんの短い間だったが、共に通路を行き、言葉も交わした。和気あいあいとは口が裂けても言えなかったが、それでも協力して試験をクリアしていくのだと思っていたメンバーから、確実に二人を落とさなければ、受からない――

「どうでもいいよ、オレは先に進むだけだから」
 思考が曇りつつあったの傍を通り過ぎ、気付けばギタラクルはドアの前に立っていた。取っ手に手をかける。下げる。しかし、扉は小さな衝突音がしただけだった。
「……話し合いが終わるまで開かないのかしら」
 ホッとした様子でポンズが言う。そうか、今まさに合格枠が一つ減るところだったのか、とは今更冷や汗をかくが、合格を阻まれたギタラクルの方に揺らぎはまったく見られなかった。わざとらしさ満点に肩をすくめ、ドアに背を預ける。
「なら早く決めてくれる、あと一人」
 まだそういうことを!
 そんな敵意を瞳にこめるポンズに、同意ながらも、は倣えなかった。
 自分が受かる、だからお前らが落ちろ、とギタラクルな主張をすることに躊躇しているからに他ならない。プレートの文章によってすでにもう“チーム”ではなくなっていることは分かっているが、だが。

 そんな、てんでバラバラなベクトルのせいで生まれたこう着状態を、崩すため息があった。
「ギタラクル、あなたももっと、焦らなくちゃならないんじゃないの」
 立派な胸の前で腕を組むリリンに、ポンズのような敵意、焦燥は見られなかった。能面ギタラクルほど、とは言いがたいものの、三人の注目を浴びる彼女は落ち着いて見える。
「あなたが引かないように、誰も、合格をふいにして身を引いたりしないわよ。話し合っても平行線。かといって、腕力に物を言わせるのも禁止されてる以上、あなたに解決策はあるの?」
 だがその口から出たのは、決して楽観的な内容ではなかった。

「事態が見えてないみたいだからはっきり言うけど、二人の犠牲で折り合いがつけば万々歳よ。だけど、アタシ達が迎える結末で濃厚なのはそれじゃない。“折り合いがつかずに時間切れ”か、“ルール違反”による、全員脱落よ」

「そんなの……!」
「なら、あなたが折れる?」
 苦い顔で口をつぐんだポンズに、「そういうことよ」 とリリン。確かに、誰かを落とすことに一人勝手に躊躇していただったが、いざその手段となると、情けないことに何も思いつかなかった。
 力づくではなく、誰かにここに残ってもらわないと、自分の合格は無い。
 しかし、誰が自ら犠牲になんてなるものか――?

「オレには関係ないね」
 なおも顔色を変えないギタラクルだが、次のリリンの切り替えしにはその変わらない顔で彼女を凝視した。
「針飛ばして、アタシ達に脱落宣言でもさせる気?」
 ポンズとは同時に顔を上げた。かといってポンズは、試練官がそれを刺された瞬間負けを宣言した、という事実しか思い返していないだろうが、はリリンの言葉を百パーセント理解していた。あれは念能力だ。そして、も“そういうことができる操作系能力”だと予想している。
 俺の予想イイ線いってたみたいっす師匠! ……ってそれは置いといて。
「誰かに対してそんなことをした瞬間に、残った人間が暴力行為だって指摘させてもらうわよ。そして三人同時に辞退なんていうことが起こった時は……」
 ねえ聞いてるんでしょ、とリリンは周りの壁に向かって声を放つ。
「分かってるでしょうけど三人とも辞退なんて数的にもありえないから、その時はギタラクルが危害を加えたことを認定してちょうだい」
 彼女の呼びかけに、やがてノイズが応じた。
『こちらが状況証拠で動くことはない。が、この監視映像は録画している。検証は十分可能だ』
 スピーカーからの返答に、リリンはそれでいいと頷いた。

 ポンズは圧倒された様子で口を開けていた。とてそんな心境だ。しかし同時に不思議だった。彼女はヒソカの知り合いという得体の知れないギタラクルから距離をとっていなかっただろうか。同じように扱われていたにも、苦手意識のようなものが感じられた。それが今はどうだろう。舌戦とはいえ、まるで対等に振る舞ってみせている。
 余裕、たっぷり? なにか、勝算がある?
 ポンズのハラハラと見守る視線の中にも猜疑心が混じっているように見え、それは、感情を表に出さないギタラクルも同様かもしれなかった。
「一つ忠告しておく。オレはいつでも、キミを殺せる。分かってるとは思うけどね」
 外野のポンズが顔を青くする。
「だらだら話し合うのが嫌になって。キミのことがどうしても気に入らなくて。ライセンス取得を度外視してでも今すぐその胴体に穴を開けるかもしれない。そういう可能性を分かって演説してるのか?」
 それが脅しであることは、意図的に増大したオーラが物語っていた。
「っ……」
 一年クロロの、他者を暗闇に引きずり込むようなオーラにさらされ続けたをしても、ぞっとする禍々しさだ。空気に絡み付くように立ち上るそれは、まるでとぐろを巻いて獲物を見下ろす蛇、なのに当人には人形のように表情が無く酷くいびつ。
 こいつ、やっぱヒソカの類友だ、この感じ、すげぇ気持ち悪い――
 しかしリリンは、
「“仕事で必要”なんでしょ?」
 そんなギタラクルを前に笑みを見せた。
「すぐに殺せるアタシなんかを、そうやってわざわざ脅さなきゃなんないほど」

 両者の間の空気が痛い。
 見た目よりも気が強い性格だと思われるポンズも、割って入れば見えないトゲに刺殺されそうな危険地帯からじりじり身を離している。敵意うずまく念から身を守る方法がない彼女だ、受けるプレッシャーは想像を絶するものだろう。でさえ、正直この部屋にいるのも嫌だ。
 ポンズの顔は蒼白、体も震えている。
 だめだ、無理やりにでも刺されようとも割り入らないとこれ以上はポンズがキツイ。
 そう意を決して二人をなだめようとしたのだが、ぶち壊そうとした空気そのものが思いがけずやわらいだ。
「うん、そうだね。ライセンスは必要だ。だからみすみす失格になるようなことをするつもりはない」
 どす黒いオーラを嘘のように消したギタラクルは、やはり今までの険悪ムードが嘘だったように呑気な調子でそう言った。それは自ら、“何があろうと危害は加えません”と、弱みを見せたも同然だ。

「けど、きみの意図もだいぶ読めてきた」
 ギタラクルは、右腕を上げた。広げた手のひらをリリンへかざすその仕草は攻撃的に見えて、は思わず息を詰めたが、

「五百」
「一億」

 意味も分からず飛び交った数字と、その後生まれた沈黙の中で、閉口した。

「千」
「九千」
「二千」
「八千五百」
「ボリすぎじゃないの、二千五百」
「適正よ、八千四百」
「あのー……」
 恐る恐る挙手してみると、数字の連呼を中断した二人が同時に振り向いた。
「何の話、っすか」
「お金の話よ」
 はい? と聞き返す間もなく彼らの“お金の話”は再開した。語尾にジェニーがつくのだろう数字の応酬がしばらくあった後、やがてギタラクルが肩をすくめた。
「五千。オレが今すぐ自由にできる額の上限だ。これ以上だと調達する時間がいる。それは、そっちも望んでないだろ」
「そうね……いいわ、商談成立。口座教えるわ」

「ちょ、ちょ、ちょっと待って……!!」
 至近距離でケータイ電話をつき合わせる、さっきまで睨み合っていたとは思えないギタラクルとリリンに、ようやく自失状態だったポンズが回復一番声を上げた。
「な、何、それって、お金で、合格枠、譲るってこと……!?」
「……はい、振り込んだよ。これで何かオレの邪魔したら、試験後どんなことをしても殺しにいくからね」
「分かってるわよ」
 ケータイを、なんと開いた胸もとにしまいこんだリリンは、涼しい顔で息の荒いポンズを流し見た。
「別にアタシの枠じゃないし、ギタラクルに譲ったってわけじゃないわよ。ただ、彼からお金を受け取る代わりに、アタシが試験を降りる。競争率が2倍から1.5倍に減った、それだけよ」
「あ、あんた、それでいいのかよ!?」
 もたまらず訊くが、
「争った末に死ぬか時間切れより、命と利益を持って帰る方がいい。別にライセンスも切羽詰まってないしね、命あっての物種よ。じゃあ後は三人で話し合ってねー」
 ひらひらと手を降って、リリンは皆から離れた壁際へと歩いていった。「あ、時間切れになってもお金返さないからねー」 と言いながら。

 な、なんか……去年も似たようなことあったような……
 友達の仲間のちょっとキツめの女の子が守銭奴の名を欲しいままにしていたことを思い出していると、ギタラクルがこちらと、そしてポンズの視線を集めてから言った。
「降りるなら、その対価を払ってあげてもいいよ」
「五千万以上はすぐに用意できないんじゃなかったの」
「……ああうん、そうだったそうだった」
 棒読みで言うギタラクルにリリンはジト目で睨み、だが文句は言わなかった。憤慨したのはポンズだ。
「わ、私はお金で動いたりなんてしないわ!」
 それにつられるようにもコクコク頷く。
「俺だって!」
 意気込んだの気組をはずすように、黒髪がゆらりと通り過ぎていった。
「ならキミには脅しの方がいいのかな」
 その標的は、ポンズ。
「例えばそう、辞退しなきゃ試験の後、キミを殺しに行く。隠れても捜し出す」
 その口が動くたびに、ポンズとの距離が縮まるごとに急速に威圧感が増していく。
「どんなことをしても」
 それはさっきの、彼がリリンと相対した時のリプレイだった。彼の纏うオーラはそれだけで人を殺せるほどに狂気に満ち、だが、リリンと違ってポンズはそれに耐える力がない。
 蛇に睨まれたポンズから悲鳴が漏れようかという、その前に、はその身を無理やり二人の間に割り込ませていた。

「やめろって」
 念能力者のくせに、そうじゃない人に向かって大人げないぞ! お前はウチの師匠か! 師匠も自慢じゃないがすごく大人げないぞ! 俺も念の自覚のない時にされたことはあるがあれは酷かった……!
 と、主張したいことがいまいち定まらない内にギタラクルに先に口を開かれてしまい、ポンズを庇ったものの、かっこいい正義の二の句は告げられなかった。
「じゃあ、お前が残れよ」
 瞬く間にこちらを向いた矛先に、は虚を突かれて固まってしまう。
「オレのやることが気に食わないんだったら、そいつに譲って、お前がここに残ればいい。それで全部解決だろ?」
「な、そんな」
「なら他に解決方法あげてみろ。どうした? 無いんだろ? そのくせに変なヒューマニズムを持ち出してきてオレに歯向かったの? お前ホント頭悪くて薄っぺらいよ、二年分の記憶しか無いだけのことはあるね」
「っ!」
 マイペースな上から目線にはそれなりに免疫がある。
 だが、さして親しくもないのにこうまで無遠慮で、自分の根幹まで踏みにじられることに承服などできなかった。
 なんで、あんたにそこまで言われなきゃいけない……!?
 の敵意をよそに、ギタラクルの方は変わらず感情の篭らない視線を降らせていた。
「どうでもいい他人を賢く蹴落すか、脳天気に人助けしてまた一年泣くのか。自由に選べばいいよ」
 そして、
「言っておくけど」
 一音一音、まるでの脳に刻み込むかのようにゆっくりとこう告げた。
「オレは、お前の合否はどうでもいい。味方する気もないから」

 『味方してほしいなんて、思ってねーよ!』
 そう、すぐさま言い返せなかったのは自分が確かに動揺したせいだった。ギタラクルの言葉が、何故か胸を穿った。しかしそれは苛立ちだったり嫌悪感だったり、そういうものが胸を圧迫したせいだろうと、判然としない内にとにかく隅へと追いやる。
 そんなこと、どうでもいい。それより――
 突き付けられた選択に、歯ぎしりした。
 他人を落とすか、自分が泣くかの二択なのは紛れもない事実。
 こんな奴に突き付けられるのはとんでもなくむかつくが、安易に言い争いをなだめ、収めようとすることよりよっぽど建設的で現実的だった。
 ポンズを落とす? ギタラクルを落とす? 胸が痛むのは前者のみだが、どっちにしろ、落とすための方法はあるのか?
 浮かばず、視線が床に落ちる。
 なら自分が泣く?

 嫌だ。
 こんなところで落ちたくない。クロロやシャルに顔向けできない。

 念だって、こんな終わり方するために、覚えたんじゃ――

 そんな嘆きに行きついた瞬間、は、自分が大事なものを見落としていることに気が付いた。
 それはきっと、去年も経験したような試験内容だから、去年と同じように指示通り、道なりに攻略していくものだと当然のように思ってしまったからだろう。しかしこの一年で、がらりと変わったことはあるじゃないか。
 は辺りを、壁、床、天井と見渡す。
 それは目の前のギタラクルに不審に映っただろうが、構わずもう一度床の方に目を凝らした後、一人小さく頷いた。

「ここに残る」

 自分より身長が高いので多少下からとはいえ、ギタラクルにきっぱり言ってやったことはなかなか優越感があった。こう来るなんて思わなかっただろ、へへん、と内心で得意げに笑むが、
「ふーん」
 軽く鼻を鳴らされただけだった。
 それでも、ポンズなどは瞳が乾いてしまいそうなほど瞬きを忘れている様子だ。
「な、なんで……」
 譲ってくれると言ってくれているのだから、そこまで驚くことはないだろうに。いや、段々目を細めていく彼女の表情を窺うに、どうも何か裏があるのではと疑っているようだ。
 考えていることはあるが、別にポンズに害のあることではない。
 だが確かに“裏”はとっておかなければいけないな、と、は部屋の四方へと問いかけた。
「ここに残ったら、そこですぐに不合格ってわけじゃ、ないよな?」

 見張っているはずの、試験官からの返答は無かった。
 代わりに「そーいうことね」 とリリンが壁から背を離す。
「ドアを通れない受験者は、時間内に下まで下りることができないから、不合格になるのよ。だから、アンタが考えてることをやっても、ルール違反じゃないわ」
 けど。
 そう眉をしかめて続けようとしたリリンを、ギタラクルの抑揚のない声が制した。
「じゃあ決まりだね。俺と、えーと、小さい女が通る」
「ち、小さい女……」
「ドア開けてくれる?」
 数秒後、閉鎖空間に響き渡るほど大きな音を立てて扉は開錠した。
 それをさっさと押し開くギタラクルは、誰の顔を見ることもなくその向こうに消えていく。再び閉じた扉はまた大きな音を立てて施錠されたようだった。
 ポンズもゆっくりと、もう一つの扉の取っ手を掴む。引き下げ、通路の先の空気が流れ込んだところで遠慮がちに振り返った。
 彼女としても先へは進むことは譲れないだろうが、引いてくれた形のへは負い目があるようだ。
「また後で」
 笑顔で手を振っても彼女から同じものは返って来なかったが、それでもすまなさそうに会釈だけして、二つ目の扉は閉まった。
 重い施錠音が響いて、また、部屋は完全な密室へと戻る。

「……残るの、ポンズとがよかったかもなぁ」
 そう呟いたが、リリンの存在を思い出したのは数秒の痛い沈黙の後だった。
「あ、違……! 別に可愛いとか二人きりになりたかったとかそんなやましいこと考えてたわけじゃ」
「念で何しても、ポンズなら見られる心配がないからでしょ」
 あまりに冷静な返しに、慌てふためいていたは無駄に動かしていた手を止めた。
 はい、その通りです……。

 リリンは壁際から離れ、一人しかいない会話相手と話しやすい距離まで近づいてきた。
「壁でも壊して、違う場所に出ようって言うんでしょ? でも……まあ分かってるとは思うけど、無理よ」
 かつかつと、ヒールで石床を叩く。
「材質は石だけなのか、実は鉄筋なのかは知らないけどさ。多分、アタシ達がこのルートに入ったからそうしたんでしょうね、床も壁も天井も、部屋全体がオーラで強化されてるわよ」
 リリンのサングラスの奥にオーラが集まる。
「いえ、強化というより……囲われてる感じ? 檻みたいに。入った時から感じたこの異様な閉塞感もその影響じゃないかしら。だから、ルール聞いてすぐ諦めたのよ。少なくともアタシに突破は無理だから」
「ルール聞いてすぐ? そんな早くから?」
「……え、部屋入って凝、でしょ、普通」
 やべえ。できてない。ごめん。あ、やめて、俺の脳内でスキルハンター開くのやめてえ!
 直立したままだらだらと冷や汗を流すに、
「ねえ……アンタってさあ」
 言いにくそうに、聞きにくそうに、この部屋でギタラクル相手にずかずか物を言ってきたリリンらしからぬ態度で声をかける。が、ぱさりと黒髪を払う仕草をきっかけに言いかけたことは無かったことになった。
「あー、いいわ。それよりどうすんのよ。何か考えあるんでしょ」
「ああ、うん」
「凝はしないから好きにやってよ」
 そう言うと、リリンの気配が薄くなる。絶状態で、オーラを行使しないという証明にするようだ。万一凝を行おうとしても、これならこっちもすぐ気付く。
 と、いうか。
 もうあらかた終わっていた。のすることといえば、壁や床の外側、部屋を包むようにして設置されている念の檻のほんの一角を、十秒ほどかけて収納すればいいだけなのだから。
 メモリーボックスは囲ったものすべてを収納してしまう。入れたいものだけじゃなく、それをおいた地面も、空気も、ちょっと入り込んでしまった人体の一部やオーラさえ、すっぱりと切断して。
「んじゃ、ちょっと穴開けます」
 一見他と変わらない床だが、目の触れないところで檻の一部が箱に収納され、四角い穴の開いたところの真上に立った。
 握った拳にオーラを集める。せっかくなのでハンマーなんかを使いたいところだが、せっかくこっちの念を見ないようにしてくれているリリンの前で、とてもつなぎの中に入ってなさそうなものを出すのはどうかと思った。心の中で、活躍の場を与えられなかったハンマーに謝罪する。
 それでも、檻の収納ついでに床の石材も四角くくりぬいて、薄くなった部分を貫くことくらい素手でもできる!
 強化系でもないパンチはリリンの目にそれほど脅威には映らなかっただろうが、頑丈な石の床に亀裂を走らせ、リリンが立っていたところまで粉々に破壊するという派手な結果をもたらした。




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