77.休息
「――だから、もう色々怖いんすよ! 試験始まってからこっち、思えば新事実新情報のオンパレードで、ねえ、分かります? 他の人の方が俺のことに詳しかった時の俺の気持ち! 弟……は、えへへ、まあ全然いいとして……あ、はい、偶然会ったんすけど、もう超可愛くて……いや、弟が俺を知ってる分にはいいんす。問題は赤の他人がってことっすよ。ヒソカ……って前話したっすよね、その変人奇術師今回もいたんすけど、そいつ俺の家のことめっちゃ知ってて聞いてないことまでべらべら喋るし、ハンター協会の会長は俺の祖父? おじいちゃん? と知り合いらしくて、実は去年の試験の時から俺のこと気付いてたって、それで今までなんも言わないって性格悪くないっすか!? しかも勝手にそのおじーちゃんと連絡取ってるって、俺の知らないとこで何やってんだって感じで、もうなんか人間不審っすよ……ねえ聞いてます? 大体ヒソカにしても会長さんにしてもね、面白がってる風にしか見えないんすよ、俺はね、そこが一番」
ぷつっ
ん? と首を捻る間もなく、ツーツーという電子音が電話を一方的に切られたことを告げてきた。
あれ、おかしいな。電波の調子悪いのかな。
しょうがないので一度受話器を置き、またすぐに上げて顔と肩で挟みこんだ。
最終試験が行われるまでの休息場所としてあてがわれた、協会の持ち物だという大きなホテル。そこのロビーに備えつけてある公衆電話なのだが、宿泊客なら小銭やカードを入れずとも話し放題なのが嬉しかった。まだまだ、言いたいことは山のようにある。
B5サイズのキャンパスノートを開き、そこにメモしてある電話番号を、数分前に押したばかりなので淀みなくプッシュしていく。ちなみになぜノートかといえば、以前紙切れに書かれたシャルの番号をなくした時の反省を活かしているのである。ヒソカから教えてもらったシャルの番号もすでに書き写している。同じ轍は踏まないのである。ん? ヒソカの番号? 書き写しておく必要がどこに?
その大きなアドレス帳を閉じ、受話器を手に持ち変え……ている間に早くも繋がった。
「あ、師匠? なんかいきなり切れ」
『愚痴ならまた切るぞ』
脳の髄まで凍りつくほどの冷気を感じ、真顔で受話器を離す。やばい、と瞬間的に察したが、しかし切られる気配はなく、こっちにも言い分があったため再び耳に当てた。
「だって、師匠にしか話せねーんだもん」
『知らん。大体最初に、まだ試験途中だと言っていたな』
「はい。最終試験あさってなんすけどその前に休ませてくれるみたいで、でっかいホテルにいます。協会の持ち物らしくって、食堂のご飯もおいしくて、あ、全部タダっすよ!」
『口ぶりからして怪我も疲労もないようだな』
「心配してくれてる……!? はい、ないっす、元気っす!」
『なら試験まで暇だろう』
「んーまあそうなんすよねー。一晩寝たらもう万全だし」
『知り合いに愚痴でもこぼして暇を』
「潰すしかないっつーかねー」
『ほう、いい度胸だな』
「……ハッ、ゆ、誘導尋問っす!」
悩んでんのはホントっすよ……!
ロビーカウンターの従業員の視線を潔く忘れ、受話器に泣いてすがりつく。それを一時やめてみてクロロの反応に耳を澄ませてみれば、切れる気配の無い電話の向こうから、一つため息が聞こえた。
『何か思い出したのか?』
「え?」
言われるまでその心配をするのをすっかり忘れていたが、振り返ってみれば……
「いや……何にも」
“おじいちゃん”のことはこうしてクロロに泣きつくくらいにキャパオーバーだったので、あれ以上深く踏み込まなかったし、キルアに尋ねてもいない。しかしそれ以前にもキルアにヒソカにネテロ会長に、過去に関する情報をたんまり浴びせられていたにもかかわらず、自分は頭痛一つ起こさず健勝に試験を受けられている。
「なんでだろ」
『さあな、だが、記憶に支障が無いならぐちぐち悩む必要もないだろう。よって、切るぞ。こっちは暇じゃないんだ』
クロロの暇じゃない理由なんて一年一緒にいた経験から考えても読書しか思いつかなかったが、悩みに対してそうきっぱり結論づけられては引きとめることもできなかった。記憶に支障が無い、というのが“変わらず絶賛記憶喪失中”という意味なのは自分でも世間一般からずれているとは思うが、でもそれで安堵しているのは事実だ。
容量も減っていない。
何も思い出していないけど、弟と出会い、なんだかんだで関係は良好。
……愚痴を言うどころか、実はものすごく安定しているのではないか、と、一杯一杯で電話をかけた時とは比較できないほどさっぱりとした気持ちで公衆電話に向き直った。
「やっぱ師匠に話すと楽になる」
『そうかよかったな』
感情のこもっていない声が言い終わる前から遠くなって、切られるかな、と察して自分も受話器を耳から離す。だが慌ててすぐにくっつけた。
「もういっこ! もういっこだけ愚痴りたいこと……!」
の全力の引きとめに応えたのは、規則正しい不通の音だけだった。
消化不良でもやもやして気持ちが悪い。というか愚痴り倒したいあの名前を思い出しただけでむかむかしてきて、しかしその捌け口が消え失せてしまったのは辛かった。
クロロもギタラクルのことは、草木も枯らす険悪ムードで睨み合うほどに良く思っていなかったはずだ。なら、試験でばったり偶然出会い、散々嫌味と罵倒をくらって気分が最低最悪だということにも同意してくれると思ったのだが。
さすがにもう一回かけ直すのはためらわれる。繋がった瞬間に受話器から人食い花が飛び出してきそうだ。
はぁ、ともやもやの何十分の一かを息と一緒に発散させながら受話器を置いていると、
「あいつに電話する相手とかいんのかよ」
「えー? 誰とでもすぐ友達になれそうじゃない?」
「友達って。あきらかに途中で切られてるぜ、あれ」
近くから、なんだか失礼なことをいう声が聞こえた。しかしは気にしない。それどころかぱっと顔を輝かせたのは、勿論その失礼な子がキルアだからだ。
「キルア! おはよう!」
と、もう昼近いが今日初めて会うので間違ってはいないだろう挨拶を投げかけるが、「ん」 と口を一ミリ動かすことすら惜しんだような返事しか返ってこなかった。ゼビル島でもこんな感じだったのでは気にするどころか小さなコミュニケーションにニマニマするだけだったが、しかし島と違うのは彼の隣に素直さの塊が立っていることである。
「おはよう、!」
「うんおはよ! 怪我平気?」
うん、と元気に頷いたゴンの顔や手、短いズボンから伸びる足にはまだ小さな傷跡が見てとれた。聞けば大量の蛇に噛まれたのだという。想像するだけで痛い、怖い。
「無理すんなよ、ちゃんと消毒してもらえよ。ほっとくと熱出ちゃうぞ」
ぽんぽんと頭を叩いてやる。大丈夫だよー、とちょっと口を尖らせながら笑うゴンの髪は少し固くて、キルアの猫っ毛とは全然違うな、と思いつつその手触りを確かめるようにさらによしよしと撫でた。
俺もどっちかって言ったら細いのかなー。今朝鏡見てあらためて思ったんだよな、髪質とか、色とかやっぱキルアとそっく
「つーかさっきの電話何?」
唐突に飛び込んできた声に撫でていた頭から手を離した。
ゴンとの振り返った先で、ポケットに両手を突っ込んでジト目を作っていたキルアが、はっ、とバカにするように笑みを作る。
「切られてたけど」
「う……まぁ向こうも忙しいみたいでさー」
「友達?」
見上げるゴンの質問に、またしてもキルアが嘲笑う。
「なわけねーじゃん、今のが。つーか友達とかいんのかよ」
「いるもん! い、いる、もん……」
「えっ、何で泣きそうなの!?」
ゴンに慰められながら静かに決意する。俺、この試験に合格したら、シャルに電話するんだ……
決して変なフラグではなく、これはただの誓いだ。が、一年も連絡していない
自分の落ち度を浮掘りにしてしまったせいで、すぐには床についた両手を剥がせそうもない。よって「ゴン行こーぜ」 と促すキルアの、淀みなく遠ざかっていく足元だけを見ることになった。
「待ってよキルア」
「あ、ゴン!」
続いてくるりと方向転換する足を、慌てて呼びとめる。移動や面接でバタバタして言えていなかったことを、気持ちを切り替え、ちゃんと立ち上がって真摯に伝える。
「その……ありがとな」
と、キルアの今を見れば、何がありがとうなのかは分かりきったことだろう。ゴンはすぐに得心した様子で笑みを滲ませた。
「ううん。俺も嬉しいから!」
*
廊下を走って追いつくと、キルアはむっすりと何か言いたげな顔でゴンを迎えた。だが、無言のままで前を向く。一体どこへ向かっているのか、それとも足を止めないことこそが目的なのか。前者だとしても機嫌がよろしくないことだけは伝わってきて、その理由をゴンなりに考えてみる。
「ねぇキルア」
「……なんだよ」
回りこんで、その仏頂面に問いかける。
「キルアも頭、撫でてもらいたかった?」
「はっ……はあ!?」
あ、図星。
*
立てた誓いの通り、合格するまでシャルと連絡をとる気はない。つまり電話をかけられる相手が尽きたは自分にあてがわれた部屋へと引き返していた。え、ヒソカに電話? うん、するわけないよね。
もうすぐ昼時ではあるが、ろくに動いていないので食事をとる気分でもない。だだっぴろいホテルを見て回るのもよさそうだが一人でというのも寂しいし、とはいえキルアはゴンにとられてしまった。他にこれという人物も思い当たらないので、大人しく武器の手入れでもしておこうかと思っていたのだが、通路に怪しい、職質をくらってもおかしくないほど怪しい二人を見つけて立ち止まった。
ランドリールーム。
宿泊客でも自由に使えるその部屋を、背の高い男と小さい男がトーテムポール状態で覗いている。見覚えがあるのは背の高い方だった。
「何やってんだよ、ハンゾー」
「うわおっ」
「うひゃいっ」
背の高い忍と、ついでに小さい男も一緒に飛び上がって揃って壁に体を打つ。そんなに驚かなくても、とむしろこっちが目を丸くするが、ようするに、後ろめたいことがあるがゆえの反応ではないかとピンと来た。
「何覗いて」
言い終わらない内に、は瞬きほどの速さで繰り出されたハンゾーの手刀に対処せねばならなかった。とっさにそれを弾き、追撃が来ない内に反対側の壁まで下がると声の限りに抗議した。
「何だよ!!」
「騒がれる前に黙らせる!」
えええ!?
殺気を放つ眼光は問答無用と叫んでいる。試験中でも見たことないほどのそれに意味が分からないまま身構えたが、
「どうかされましたか?」
少々舌足らずな声が、ゆったりと割り込んできた。
「うわおうううっ!?」 と、さっき呼び掛けた時並みに大げさなリアクションをとるハンゾーと背の低い男のちょうど間、ランドリールームの入り口にちょこんと佇む少女がいる。
十代後半くらいだろうか。蜂蜜色のショートボブがふんわりとまとわりつく顔が、三人の顔を順に見て、柔らかく微笑んだ。
「何か洗濯物はありますか? よかったらお預かりしますよ」
三人一緒に「えっ」 と同じ音を漏らす。“女の子”、“俺らのぱんつ”、“よかったら預かります”などの語句が男共の脳内をぐるぐる回っている間に少女は抱えていた洗濯かごを部屋の中に置いて、戻ってくるなりぺこりと頭を下げた。
「えっと申し遅れました。私、試験の補佐をしております、ミラと申します。洗濯でもお食事でもお部屋の設備のことでも、何か御用がありましたらおっしゃってくださいね」
ミラ、と名乗った少女は、なるほど、仕事中のためか上下とも動きやすいジャージに身を包んでいる。彼女自身のふんわりとした女の子らしい雰囲気にはそぐわないが、いや、むしろミスマッチさがそれを引き立てているようにも思え、男二人がこっそりこそこそ、邪魔したを亡きものにしようとするほど忍んで覗いていたのは間違いなく彼女だと確信するくらい、ようするにミラは――
可愛い。
「あっ、俺はハンゾー。ジャポンで忍やってるんだけどちょっと待ってくれ名刺が」
まず先手を取ろうとしたハンゾーが、連れの男にドーンと突き飛ばされた。
「お、俺、ポックル! 今もアマチュアで活動してはいるが幻獣ハンター志望だ。えっとミラちゃんって年は」
今度はポックルとやらがふっ飛んだ。
「試験の補佐ってことはミラちゃんってハンター協会の人間か? もしかしてハンター? いやあ見かけによらな」
「すっこんでろハゲ! 試験の補佐なんて大変そうだし、彼氏とか心配してるんじゃ? ああごめんミラちゃんすっごく可愛いから恋人くらいいるんじゃないかと思ったんだけど、で、彼氏いるの?」
「いってーんだよチビ! いきなりぶしつけなこと聞いてすまんな、で、ちなみにどうなのいるの?」
そしてまた復活したポックルに「チビだとコラァ!」 と頭突きをくらわされ、睨み合い掴み合いへと発展した二人と一緒にいるのはとてつもなく恥ずかしかった。と、その真ん中で可哀想にきょとんとしているミラ少女と目が合って――過去二年間でも遭遇したことのない、愛らしい苦笑というものを投げかけられてはも愚かで恥ずかしい男の仲間入りをする他なかった。
か、かわいい。
「あっ、あの、俺は、って……」
「知ってます」
「えっ」
再び三人の驚きが重なったところで、ミラが小さく噴き出した。その破願した表情に三人揃って、天使、と思ったのは言うまでもない。
「私は試験官ではないんですけど、その補佐として受験者さんの動向を追ったり、救護したりしていたので……だから皆さんの名前は知ってます」
「動向って……島で尾行してた奴のことか。俺のはおっさんだったが」
「俺もだな。スーツにグラサンだろ」
二人して当然のように言うが、にとっては寝耳に水の話だった。
尾行? 動向を追う?
「何それ!?」
「は? 気付かなかったのか? お前……ナナを返り打ちにしたわりにはボンクラだな」
バカにするような物言いは気に食わなかったが、しかし、まったくもって身に覚えがないに反論することはできなかった。
ポックルの簡単な説明によれば、トリックタワーと違って監視の行き届かないゼビル島では、協会の人間が直接受験者に張り付き、その行動をチェックしていたようだとのこと。ろくに話したことのない彼にも「あれは普通気付くと思うけどなぁ」 と肩をすくめられては、は打ちのめされるしかなかった。
ああ……そういえば。
キルア、途中で変なこと言ってたじゃないか……急に立ちどまって遠くを見ながら、『いねーな』 って。何が? と思ったけど、あれって試験官のことで、キルアも気付いてて、バカで間抜けで鈍ちんなのは俺だけってことなんじゃ……
「はい、ポックルさんの言う通りなんですが」
がつん、とトドメの一撃をくらったが、ミラは意外な言葉を続ける。
「さんは、気付かなくて当然だと思います。他の人と違って私が監視していましたから。弟さんと合流後も、気付かれないようにそっちについていた試験官は外しましたし」
え、と顔を上げたに、ミラは立てた人差し指を口元に当てて、いたずらっぽく笑んだ。
「ヒソカさんとギタラクルさん、リリン……じゃなくてナナさん、そしてさんの四人は、私が監視していました。理由、分かりますよね」
「……それって」
しー、と、声にはしなかったがミラの口がそう言っているのが分かった。なのでこちらも口を噤んだが、彼女の印象がみるみる変化していくのをは感じていた。
つまり、この子、念の――
その驚きをゆっくり噛み砕く間も与えられず、はポックルの全体重にのしかかられていた。
「何ミラちゃんと内緒の意思疎通してんだよっ」
そこに、後頭部を押さえ込んで床へとめり込ませようとするハンゾーの手が加わる。
「ナナの乳も揉めねーようなチキン野郎が調子こきやがってっ」
「揉むのはダメだろ!!」
「あ、クラピカさん、ボドロさん」
まさに天使のような声とタイミングでミラ少女が呼んだのは、通路の先に通りがかったクラピカと、壮年の男性だった。ハンゾーの攻撃の手が緩まった隙をついて抜け出したは、息をつくのもそこそこに、また変わった取り合わせだなとこちらにやってきた二人を見て思う。
「ミラさん、先ほどはありがとうございます」
「いえ。お役に立てましたか?」
「うむ、今日明日は十分退屈せずに済みそうだ。礼を言おう、娘さん」
試験の補佐要員と受験者二人の会話を見守っていたに、クラピカが数冊抱えた本を示しながら説明してくれた。何か暇を潰せるものはないかとミラに尋ねると、ホテル内にある書庫を案内してくれたのだと。
「もどうだ? なかなか立派な書庫で、蔵書数も一般の図書館にひけをとらない。見に行くだけでも有意義だと思うぞ」
「よろしければ案内しますよ」
ミラの申し出に、釣り掘の魚よろしく食いついたのはハンゾーポックルだ。
「あー、そうだなやることもないしゆっくり知識を深めるのも悪くないな」
「俺も実は無類の読書家で、書庫があるならぜひ行ってみたいな! ああでも場所が分からないなぁ」
「じゃあ今から行きましょうか。さんはどうしますか?」
無言で首を横に振って、はそのままクラピカの隣で彼らを見送ることにした。知的ぶっているようだが鼻の下が伸びているのを隠し切れていない不様さを露呈しながら、深々と一礼して歩いていくミラの後ろをちょろちょろついていく男共を。
はなんとなくもう一度かぶりを振りたくなった。
「……やっぱし、あいつらの同類にはなりたくないっつーか」
「同感だ。確かにミラ嬢は可愛らしいが、ああも品性をなくすのは……ああいう男にはなりたくないものだな」
うんうんと今度は是首するだったが、ん? と同じ首をわずかに傾げた。
クラピカさん、妙なことを言うな?
本人にそれをツッコむ前に、「若い男とはああいうものだ」 と苦笑しながらクラピカの連れ、壮年の男性が会話を繋いだ。皺の数だけ年を重ねては見えるものの、体格は武芸者のそれである。ここまで残っているのも頷ける彼の名前は、確かさっきミラが――
「さん、だったか。私はボドロ。最後の試験も四次試験同様に互いに争うものかもしれんが、ここまで残った者同士、力を尽くそう」
思い出す前に自己紹介をしてくれて、さらには何ともスポーツマンシップに溢れる気概で笑む彼に、も快くこちらこそ、と返した。ああ、ヒソカやギタラクルにもこういう精神が……いや、あのビジュアルでそんなものがあったら逆に怖いな。
「互いに争う、か」
ある意味見た目(変形含む)と性格が一致している二人をぶんぶん頭から振り払っていると、クラピカが考え込むようにぽつりとボドロのセリフの一片を拾った。
「面談で、志望動機の他に誰に注目しているか、誰と戦いたくないかと他の受験者への印象を重点的に訊かれたことを考えると……そういう試験である可能性は高いな」
「受験者同士戦うってこと?」
「ああ」
顎に手をやったまま、クラピカが肯定する。
「ミラに最終試験内容がどこまで決まっているのか尋ねてみてもよかったな。面談がどのくらい試験に関わってくるのか、そういうことだけでも我々には大きなアドバンテージになる」
「しかし、あの娘は単なる裏方だろう。それほど重要なことを知っているとも思えん。何、どのような試験でも全霊を尽くすだけだ」
それではな、と軽く手を上げ、数冊の本と共に去っていくポドロの背に、「確かに」 クラピカが呟いた。
「あれこれ心配を巡らせるよりも、今は何も考えず休息するのが正しいのかもしれない」
「んー、それはあるかもなー。試験が気になって眠れなかった、じゃあ意味ないし」
「よかったのか? は」
試験から意識を切り離す方法、としてクラピカは本を一冊示す。
読書といえば、その息抜きにも活字を求めるほどの中毒者が傍にいたが、自分もそれを手に取ろうとは一年過ごしてついに思わなかった。
「うーん、本は俺、あんまり好きじゃ……」
眉根を寄せかけて、そんな風に読書を否定した時のクロロの凍てついた目を思い出し、慌てて取り繕う。
「あ、や、本が悪いってわけじゃ、俺が苦手なだけで」
「ふふ、興味がないのに書庫へ案内をさせる輩よりもよっぽど、私は好感が持てるよ」
細めた目をそのまま閉じて、あの二人を思い出したのかやれやれとため息をついた。
「レオリオもこの場にいたらアレに加わっていただろうな……あの容姿で、加えてどうやらこのホテルにいる唯一の女性のようだから……彼女も大変だな」
に同意を求めるように苦笑してみせた後、また夕食時にでも会おうと曖昧な、けれど食堂は一つなので実現するだろう約束をしてクラピカは部屋へと戻っていった。
それを、手を振りながら、不思議な思いと共に見つめていた。
やっぱりクラピカは変なことを言う。
ミラがここで唯一の女性って……
クラピカってば、自分のこと数え忘れちゃってんじゃん?
残念なことだが、はその疑問を口には出さず、また出したところでホテルの通路には今は一人きり。
……非常に残念で遺憾ながら、その盛大な勘違いを正してくれる者は存在しなかった。
← back →
------------------------
|