9. 答案提出
ピピピピピ
腕時計のアラームを止め、
「そこまで! 筆記テスト終了です、筆記用具を置いてください」
ベルが高く右手を挙げたのと同時に、最後の取捨選択を終えたは鉛筆を放り投げた。
「よっしゃ、ぎりぎりっ!」
「では採点します。各自、自分のテスト用紙を前へ持ってきてください」
試験官に従い、は席を立って、まだ机に突っ伏している受験者の後ろを通り抜けた。
うん? こいつら、持っていかねーのか?
不思議に思いつつも、机の間にある階段を下りていく。
この試験を受けたのは312人。それにしては階段がすいてるな、とやはり不思議に感じていると、すぐ前にヒソカの後ろ姿が見えた。それから、彼が手に持つとっても綺麗な答案用紙も。
「……お前、白紙!?」
驚いて、つい叫んでしまった。
確かに彼が真面目に地理やら化学問題を解いている姿は全く想像できないが、しかしこれはハンター試験、似合う似合わないの問題ではない。
「大丈夫 」
と、彼はそれをベルに提出する。
れ、0点で通るわけないだろ……。
去っていくヒソカを心配しながら(一応シャルやマチの仲間だし)、も用紙をベルに渡す。
「……マジ?」
ごく近くで聞こえた呟きに驚いて振り返ると、すぐ後ろで順番待ちをしていたシャルがそれ以上に目を丸くしていた。
用紙を提出した後も、彼はの顔をまじまじと見つめる。
「何だよ?」
「記憶喪失、なんだよな?」
「おう。だから筆記試験なんて聞いて焦ったよ。十五問目だっけ、タンジェントって何だっつーの」
「え?」
「素で分かったの、二問だけでさ。だから後は……」
"裏の神様"に運命をかけた事を説明すると、シャルの目はますます丸く見開かれた。
「それじゃ、ほとんど、勘?」
「あはは……まあな。でも、俺は裏の神様を信じてるぜっ」
「はぁ……」
ぱちぱちとまばたきして、やっぱりまだを見つめるシャルの後ろで、テスト用紙を回収を終えたベルがその枚数を数えていた。
指が、一番下の用紙を弾く。
「全部で、68枚ですね」
へ?
上位78人に入りますように!
そう祈り続けていたには不可解すぎる数字だった。
何で? 300人はいるのに──そう思って広い部屋を見渡したその目には、更に不可解な光景が飛び込んできた。
自分の両サイドで机に身を預けていた受験者2人。彼らと同じような奴らが見渡す限り、数えきれない程存在していたのだ。
な、何が、どうなってんの?
「……っていう顔だな」
見透かしたように、シャルがまた真後ろで呟いた。
「え、これ、何?」
尋ねても、シャルはただを見つめて「お前って、よく分からないヤツだよな」と言うばかりで答えてくれない。
そうしている内に、ベルの教鞭が注目を集めるように響き渡った。
「それでは二次試験合格者を発表します。合格ライン78名に達しないため、テスト用紙を提出した68名を全て合格とします」
同時に黒板の横の扉が開いて、小さなスーツ男(番号札を配っていた奴だ)が礼をした。
「二次試験合格者の皆様、どうぞこちらへ。三次試験会場へご案内します」
「もうちょっと嬉しそうな顔すれば?」
三次試験へと続くらしい通路を歩きながらもまだぽかんとしているへ、前にいたシャルが言った。
「でもさぁ……」
「あの寝てた奴らは、他の受験者の妨害に負けたから不合格。最初に試験管が言ってたろ、提出する所まで試験の内なの」
「そうなの?」
そのあまりの鈍感っぷりにか「やっぱり、変な奴」と呟くシャルをよそに、「まぁいっか、合格できたんだし」とは呑気に笑った。
「けどさ、あいつら気の毒だなぁ。0点で受かった奴もいるんだぜ」
「へぇ、どいつ?」
「ヒソカ」
「ああ……なるほど」
*
ベルは、机で気絶している受験者達(眠っている者、神経を麻痺させられている者と様々だが)だけが残っている教室で、集めたテスト用紙をぱらぱらとめくっていた。
68人か。ちょっと骨がなさすぎる。できれば知識でも合否を判断したかった──ほら、0点の奴まで合格している。
古い文献や遺跡の調査をするハンターであり、それを学会に発表する学者でもあるベルは、この結果を不満に思っていた。
合格者の定員、50名くらいにしておけばよかったわ。それなら、学問を侮辱するようなこの白紙答案を落とせたのに。
名前記入欄の42の数字を、ピンとはじく。
それをめくると、不満な結果の中でもベルの目を惹いた用紙が顔を出した。
全問正解者は、この二人だけか。
300番と、それから、299番。
二つの答案を眺めながら、腕っ節だけでなく、知識を備えたハンターが一人でも増えてくれる事を願い、ベルは試験官の業務を終えた。
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マチさんは何点だったんでしょうかね。
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